幸福であることを習慣にする

昨日に引き続き。

 列車で旅行中の出来事だ。ある朝、六人ほどが洗面室でヒゲを剃っていた。列車で一晩明かした後、このような狭く込み合ったところでよくある例だが、この他人同士の一団は楽しげもなく、話もほとんど交わす者もいなかった。
 その時、一人の男が明るい微笑を浮かべて入ってきた。彼は私たち全員に機嫌よく「おはよう」と挨拶した。返ってきたのは、むしろ冷やかな言葉だった。彼がヒゲを剃りだした時、まったく無意識のうちに楽しそうに鼻歌を歌っていた。それが少し誰かに神経にさわったのだろう。とうとうひとりが皮肉っぽく言いだした。
 「朝っぱらから、ずいぶんと幸せそうだな。なんでそんなに陽気なんだい」
 「そうです。おっしゃるとおり私は幸せで、本当に愉快です。実は私は幸福であることを習慣にしているのです。」
 ただ、それだけのやりとりだったが、今振り返るとそこにいた人はみな、彼の「幸福であることを習慣にしている」という言葉を心に刻んだと思う。

 
    花シリーズ(福岡・朝倉市編)